ロバート・シオドマク「殺人者」(1946)殺されるのを待っていた男の物語
ずーっと観たかった映画が超名作だったときの喜びときたら、どう言ったらいいでしょう。本当に待ち焦がれた恋人でも帰ってきたくらいのうれしさです。
そんな訳で、ようやく観たロバート・シオドマク監督の「殺人者」(The Killers 1946🇺🇸)がとんでもない名作だったことをまず報告致します。
殺人者(1946)
アーネスト・ヘミングウェイの短編小説を、主にジョン・ヒューストンが脚色したとあって、ストーリー自体がとてもおもしろくうまく出来ています。ヘミングウェイも自作の小説を原作とした映画の中で、いちばん気に入っていた作品なんだそうです。そして主演のバート・ランカスターのハリウッドデビュー作でもありますが、この映画、まずオープニングがたまらなく良いんです。
不穏な音楽と共に、夜の田舎町に降り立つ二人の男。
ゆっくりとダイナーへ向かい、別々の入口から入ると粗暴な態度で料理を注文します。店内には店主の他、客がひとりとキッチン内にいるコックの3人だけです。料理が運ばれると、突然拳銃を取り出す二人。聞けばこの店に毎晩食事に来るスウェード(バート・ランカスター)という男を殺しにきたとサラリと話します。店内の3人を絞め上げたものの、スウェードが現れないと知ると、さっさと出て行く殺し屋たち。
店内にいた客はスウェードの同僚でしたので、抜け道から大急ぎで彼の部屋へ向かい殺し屋が来ている旨を伝えますが、当のスウェード本人は無気力にベッドへ横たわったまま。もういいんだと完全諦めモードです。同僚は男に尋ねます、身に覚えはあるかと。すると
『悪事に手を染めたことがある』
と一言。謎は深まるばかりです。
同僚が部屋を去り、程なくして殺し屋がひたひたと階段を上ってくると、男は気配を感じながらもただ待っているだけ。まるで殺される日をずーっと待っていたように。そして扉が開くと激しい銃声と共に、傷のある男の手から力が抜けおちるのです。
ここまででもう釘づけです。気づけば前のめりになってかぶりついて観ていました。
さて、この殺された男が生命保険をかけていたため、保険会社の調査員ジムが捜査に乗り出すと徐々に真相が明らかになっていくわけですが…。
殺しの陰に女あり。ノワールの教科書通りとんでもない悪女が登場するのです。
スウェードは元ボクサーで、怪我により引退を余儀なくされ沈んでいた時、あるパーティでキティ(エヴァ・ガードナー)という女と出会います。男にとっては初めての“完全な”恋です。盗んだ宝石を身につけていたキティをかばい刑務所へ入った男は、女の手紙をひたすら待ちますが、便りなど一切ありません。当然出所後もキティは行方知らずになっているのですが、意外な場所で二人は再会することになり、それによってスウェードの運命は決まるのです。
オープニングが良い映画っていうのは、どうしても中だるみや尻窄みしがちなのですが、この映画はまったくそれがなく、むしろどんどんおもしろくなっていくんです。クレーンを使って長回しで撮ったという犯罪シーンもお見事ですが、ホテルのメイドの証言や共犯者の死の淵での回想によって真実が少しずつ暴かれていくのにどんどん引き込まれていき、どうなるのか気になってたまらなくなります。そしてついに、オープニングで登場した殺し屋が再び登場すると、物語はクライマックスを迎える訳ですが、最後の最後まで悪女の行く末を引っ張ったのもすばらしいと思いました。
とんでもない悪女を心底愛してしまった男。女が男の元を去ったとき、男はすでに死んだも同然だったのかもしれません。
それにしてもこんなに良くできた映画が、知る人ぞ知る映画として眠っているなんて…なんだかもったいないような気がしますが、今まで映画を掘ってきてこの映画に出会えたことに心から喜びを感じると共に、ここまで辿り着いた自分をちょっと褒めてあげたくなりました。つまり、それほど素晴らしい映画ってことです。
作品情報
監督■ロバート・シオドマク
脚本■アンソニー・ヴェイラー
ジョン・ヒューストン(クレジットなし)
リチャード・ブルックス(クレジットなし)
原作■アーネスト・ヘミングウェイ『殺し屋』
出演■バート・ランカスター
エヴァ・ガードナー
エドモンド・オブライアン
アルバート・デッカー
ウィリアム・コンラッド
チャールズ・マッグロー
1946年8月30日公開(アメリカ) 103分 モノクローム
こんにちは〜
ノワール作品をたくさん観ているひとり映画さんが、それだけ推奨されるというのは興味深いです。バート・ランカスターのハリウッド一作目というのも良いですね!
シネフィルKT さま
こんにちは。
シオドマク監督作品は、『らせん階段』も『幻の女』もおもしろいですが、この『殺人者』がもうこれまたすごい良かったんです〜!バート・ランカスターもデビュー作から存在感抜群でした!