「ビッグ・コンボ」(1955) 映画の中のいい女、リタについて

 

今夜は「ビッグ・コンボ」(The Big Combo 1955/米)を観ました。

フィルム・ノワールを語る上で外すことのできない作品と言われている映画で、監督は『拳銃魔』のジョーゼフ・H・ルイス。撮影は“照明の魔術師”ジョン・オルトンが担当し、メロウなテーマソングは『ローラ殺人事件』のデイヴィッド・ラクシンが手がけています。また、主演のコーネル・ワイルドとその妻ジーン・ウォレスの個人会社シオドラ・プロと、脚本家フィリップ・ヨーダンの個人会社セキュリティ・ピクチャーズが製作した作品なんだそうです。

『拳銃魔』が良かったので、非常に楽しみに観まして、期待通りのすばらしい映画でしたが、今回はこの映画の登場人物“リタ”という女性について書きたいと思います。

 

 

ビッグ・コンボ(1955/米)

まずは簡単にストーリーから。

レナード・ダイアモンドという刑事(コーネル・ワイルド)が、半年かけてある巨大な悪の組織を追い続けていますが、まるで尻尾がつかめません。彼らは今で言うインテリヤクザです。企業を隠れ蓑にし、あらゆる取り引きを現金で済ませ痕跡を一切残しません。しかしレナードはあきらめられません。それはマフィアのボスであるブラウン(リチャード・コンティ)の愛人スーザン・ロウエル(ジーン・ウォレス)に惹かれ始めていたからです。間もなく、スーザンが自殺を図ったという情報が入り、病院へかけつけたレナードは、スーザンがうわ言で“アリシア”と呟いたの耳にします。そして“アリシア”の手がかりを掴むため、ブラウンの部下を96人も一斉逮捕し、ブラウンを嘘発見器にかけますが、何一つ情報は得られません。その後レナードは、逃げたブラウンの部下を見つけ出し、アリシアがブラウンの妻だったことを知ります。そしてこの妻の存在から、ようやくブラウンの悪事が暴かれていくのですが、そんなレナードを消すようブラウンは部下に指示していたのです。

さて、ざっとこんな感じのお話しですが、

ヘレン・スタントン演じる“リタ”とはレナード刑事のガールフレンドで、職業は踊り子です。

彼女の登場は、主人公のレナードに楽屋口で待ち伏せされるシーンから始まります。

レナードの顔を見るなり「図々しいわね」と彼を睨みつけるリタ。ここから、ふたりの腐れ縁的な関係性が伺えます。結局はやさしく笑って彼の誘いに応じると、続いてレナードの部屋でのシーンです。

レナード「リタ、君は美しい。だが愚かだ。なぜ刑事と付き合う?」

リタ「ヤクザと刑事。女は男の稼業を問わない。愛が問題よ。」

黙るレナード。

リタ「その女は誰?私は愚かよ。でも男のことは知ってるつもりよ。今度失恋した時はすぐに来て。」

そう言うと、「靴をとって」とさっさと帰ってしまうのです。

どうですか。とんでもなくいい女だと思いませんか。男が黙っただけで、一瞬にしてすべてを察知したリタ。それは彼女がレナードを愛しているからこそわかるのです。このシーンがあまりにもステキで、思わず巻き戻して何度も見直し、メモまでとってしまいました。

そんなリタですが、その後彼女がどうなるかと言うと、なんとレナードの身代わりとなり、彼の部屋で殺されてしまうのです。24歳の若さで。レナードは残されたリタの靴を握りしめ、

「サックス・フィフスアベニュー。いちばんいい靴で来た。」

と崩れ落ち、マフィアの愛人に心を奪われ、リタを粗末に扱ったことを悔やむのです。

まったくレナードってやつはどうしようもないです。こんなにも良い女がそばにいたのに、それに気がつかないとは。しかし、終わったことをどうこう考えても仕方がありません。リタの為にも、とにかくブラウンの悪事を暴き出すと、ここで強く心に誓うのでした。

解説によりますと、40年代のノワールでは女の存在によって男が破滅へと向かうが、50年代ではむしろ女は痛めつけられ虐げられていくそうで、確かにこの映画に登場する女たちは、ことごとく泣かされています。しかしリタだけは、粗末に扱われようと決して自分を見失わず、いちばんいい靴を履き、愛する男に会いに行ったのです。そんなリタの簡潔な生き様があまりにもステキで、観終わって私の心に深く残りました。

もちろんその他にも、陰影を効果的に使った巧みな名ショットの数々、ブラウンの最強に嫌味なウンチク語り、身体に傷を残さないための補聴器(?)とヘアトニックを使った拷問、ブラウンから部下に送るダイナマイト入りギフトボックスなどなど、名シーンばかり見どころ満載ですので、機会があれば是非。

それではまた。

作品情報

監督■ジョーゼフ・H・ルイス

出演■コーネル・ワイルド

ジーン・ウォレス

リチャード・コンティ 他

1955年2月13日公開(アメリカ) 89分 モノクローム スタンダード

 

 

 

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