若尾文子の映画「その夜は忘れない」(1962) 大映版『ヒロシマ・モナムール』

 

今夜は若尾さんと田宮二郎さんの「その夜は忘れない」(1962)を観ました。

 

その夜は忘れない(1962)

Story

舞台は終戦から17年後の広島です。

記者の加宮(田宮二郎)は、現在も残る原爆の傷跡や新たな真実などを探す『原爆17年後の広島』という企画の取材のため広島へ訪れます。ところが着いてみると広島から原爆の影は薄れ、傷跡の残る被爆者への取材からも手ごたえは感じられません。

広島は原爆を忘れてしまったのか。被爆者たちの意外な反応に加宮は驚きます。

その晩加宮は、広島に住む学生時代の友人・菊田(川崎敬三)に会い、あるバーで、菊田が広島一の美人と称える美しいママ・秋子(若尾文子)と出会います。秋子は加宮が原爆の取材に来た記者だと知り、どことなくよそよそしい様子です。

翌日加山は取材中に偶然にも秋子と出会うのですが、秋子はそっけなく、すぐに立ち去ってしまいます。真夏の太陽がじりじりと照りつける中、息苦しい思いで原爆という悪夢の痕跡を辿りながら、一日中歩き回っても何の成果も得られず、ついに加宮は諦めて取材を切り上げ東京へ帰ることを決めます。

そんな時、菊田から得た情報を頼りに取材へ出かけた加宮は、そこでまたしても偶然秋子に出会います。週に一度は店を休んで、幼なじみのいる宿でのんびり過ごしているという秋子。その日一日、共に楽しく過ごしたふたりは、強く惹かれ合い、お互い抑えられないほどの気持ちを抱えながらも、それぞれの帰路につきます。

翌朝東京へ戻るはずだった加宮でしたが、ひと晩考えた末、秋子と生きることを決意して彼女のもとへ向かいます。しかし秋子はなかなか首を縦に振ってくれません。やがて加宮は、実は秋子こそ、被爆による病を抱え、いつ悪くなるかもわからないまま、恋も結婚も諦めてひとり暮らす身の上だったと知るのです_。

 

 

Review

久しぶりに若尾さんと田宮さんの共演作を観ましたが、とても良かったです。おふたりの組み合わせの場合、やはり大人の男と女の物語です。今回は広島の原爆という話しの中にあって、丁寧に丁寧にクライマックスへ向かい、着火が遅かった分、より後半の盛り上がりが熱く、切なくてたまりませんでした。

この映画を観ていて、ヌーヴェル・ヴァーグ作品として知られるアラン・レネ監督の「ヒロシマ・モナムール」(1959)を思い出しましたが、それもそのはず、あの映画も撮影は大映なんですよね。そういう訳で、新広島ホテルという同じホテルがロケ地に使用されていたり、夜の広島の撮り方なんか似ていて、大映版「ヒロシマ・モナムール」という感じもちょっとありましたが、この映画の方が、より広島で撮る意味を感じさせる物語であり、なかなかの秀作ではないかと思いました。

それにしても恋に狂う田宮二郎はいつ見てもすてきです。「女の小箱より『夫が見た』」での田宮さんもすてきだったのを思い出してしまいました。それから、若尾さんが田宮さんを覗き込む風でカメラを覗き込んでにっこり笑顔になるシーンがありましたが、これには全く参りました。シリアスなストーリーだけに、あの若尾さんの笑顔のアップがまぶしすぎて、その瞬間全身の力が抜けてしまいました。

めずらしい広島ロケということもあってか、当時の広島市民球場や原爆記念館など、広島の名所が見られるシーンがあるのも良かったです。基本的にそこまで暗い映画ではないものの、17年という年月をもってしても消えぬ戦争の爪痕によって、結ばれるはずの男女は別れ別れとなり、小さな恋の炎は消されてしまうのです。切なくもの悲しくも、広島で燃え尽きたふたりの美しい思いが心に残る、そんな映画でした。

それではまた。

 

 

作品情報

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角川書店 (映像)

監督■吉村公三郎

出演■若尾文子

田宮二郎

川崎敬三

江波杏子

角梨枝子

中村伸郎

1962年9月30日公開 96分 モノクローム

 

 

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