しとやかな獣
こんばんは。
今夜観る映画は「しとやかな獣」(1962)です。
若尾文子さんは第5期ニューフェイスとして1951年に大映に入社し、以降数多くの映画に出演した、大映を代表する看板女優のひとりで、私がいちばん好きな女優さんでもあります。
また、若尾さんは、今もなお非常にファンが多く人気の高い女優さんでして、2015年には、若尾さんの出演映画60本を一挙に公開するという「若尾文子映画祭」が開催され、好評のためアンコール上映まで行われたほどなんです。
以前書いた「日本橋」(1956)という映画にも出演しておりますので、よろしければそちらもどうぞ。
この「しとやかな獣」は、川島雄三監督が若尾文子を主演に大映で撮った3作品のうちのひとつで、原作と脚本は新藤兼人という豪華な顔ぶれとなっております。
それでは作品情報からどうぞ。
作品情報
元海軍中佐の前田時造は郊外にある、エレベーターのない団地の一室に住んでいる。時造には妻と二人の子供がおり、芸能プロダクションで勤める息子の実と、流行作家の愛人である娘の友子を使って金を稼いでいた。実は会社の経理である三谷幸枝と深い仲にあったが、幸枝から別れを切り出されてしまう。
出演■若尾文子
伊藤雄之助
山岡久乃
監督■川島雄三
原作・脚本■新藤兼人
音楽■池野成
1962年12月26日公開
感想・レビュー
完全に忘れておりましたがこんな映画だったのですね。団地の一室のみのシーンが全てで、それ以外のシーンは全くないという、結構実験的な映画でした。映画というより、舞台を観ているのに近いです。そして若尾さんの登場シーンがあまりにも少ないのはチト残念。
ちゃっかり家族
物語は、ある団地の一室に客が来る前に、部屋にある高価なものを隠し、敢えて貧乏くさく演出する夫婦の姿から始まるのですが、この夫婦がまぁちゃっかりしています。夫の時造は、元海軍中佐なんですが、戦後何をやってもうまくいかず、息子の実からこづかいをもらい、娘の知子を小説家である吉沢の妾にして、吉沢から金を巻き上げては、狭い団地の一室で優雅な暮らしをしています。妻のよしのもなかなかで、夫と同じく、子どもたちからの援助を涼しい顔で受け、もっとうまくやるようさらりとアドバイスしたりしています。この夫婦と子どもたちの、あまりのちゃっかりぶりが、観ていておもしろいを通り越してイライラしてくるほどですが、ある意味では、完全に割り切って役割を果たすという新しいタイプの家族を描いた、斬新な設定になっているとも言えます。ともかくこの家族のクレイジーっぷりがこの映画の大きな見どころのひとつであることには間違いありませんね。
もうひとりの金の亡者
そんなお金への執着心の強い家族の前に現れる、さらに上手の金の亡者が若尾文子演じる三谷幸枝です。幸枝は子持ちの未亡人で、子どもと自分自身が生きていくのに必要な旅館の開業資金を貯めるために、会社の会計係を勤めながら、自分では一切手を汚さず、まわりの男たちから金を巻き上げていたのですね。会社を辞めて男たちと手を切り、今まで自分を犠牲にして稼いだ金を、やっといざ使う時にきて、自分の行くべき道を自分自身に言い聞かせながら階段を下るシーンがすごくいいですね。ここで、幸枝の強さと弱さの両面がうまく描かれているように思います。
第三の男
様々な金の横領やごまかしがあるにも関わらず、会計係の幸枝と、税務署の徴収係神谷でうまく帳尻あわせをしていたのですが、その神谷が逮捕されることになり、ついに警察沙汰のなるかも知れない状況になります。そして、幸枝を探して神谷が団地を訪れるのですが、そこに幸枝の姿はなく神谷は幸枝への伝言を残し去っていくのですが…。
最後のラストシーンに妻よしののアップシーンがあるのですが、これが意味する事が私にははっきりとわからなかったですね。思い当たる節のある方は是非教えて下さい。
ひとりごと
川島雄三監督という人は、日本初のキスシーンを撮った監督とも言われていて、斬新な設定やシーンを映画に取り入れる事も多かったようで、この団地の一室のみで物語が展開されるというのも悪くないとは思うのですが、とにかく若尾さんの出演シーンが少なくなってしまうのが、残念ですよね。正直この家族のシーンより若尾さんがもっと観たかったです。
若尾さん演じる幸枝の、男たちを翻弄する一枚上手な未亡人がすごくいいキャラクターなだけに、なおさらもっと観たくて残念なんですよね。川島監督のこだわりが強くあったのかもしれませんが、何か事あるごとに、いちいち団地に押しかけてこなければ話が始まらなくなってしまうので、やはりこれは映画より舞台向きの設定ではないかなと思いました。
何だか若尾不足で不完全燃焼ですので、また近々若尾作品を観たいと思います。
それでは今夜はこの辺で。
おやすみなさい。