映画「パリ、恋人たちの影」(2015) 何気ない日常がやけに印象深い大人の恋愛映画
フランス映画界にはゴダールやトリュフォーなどのいわゆる「ヌーヴェル・ヴァーグ」の監督たちから影響を受けたとされる「ポスト・ヌーヴェルヴァーグ」と呼ばれる監督が何人かいるそうですが(モーリス・ピアラ、ジャック・ドワイヨンなど)、今回はその「ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグ」の最も重要な監督とされるフィリップ・ガレル監督最新作、「パリ、恋人たちの影」をご紹介します。
13歳から映画製作を続けているという監督のフィリップ・ガレルは、1968年、20歳でアンディ・ウォーホールの映画「チェルシー・ガールズ」に感銘を受けすぐさま渡米し、アンディの「ファクトリー」に出入りしていたというただならぬ経歴の持ち主で、後にヴェルヴェット・アンダーグラウンドのヴォーカリスト、ニコと結婚。以後ニコを主役に「内なる傷痕」(1972)など7本の映画を製作しています。
また、ヴェネチア国際映画祭の監督賞に当たる銀獅子賞を「ギターはもう聞こえない」(1991)と「恋人たちの失われた革命」(2005)で二度も獲得した他、様々な作品で多くの映画賞受賞しており、本作も第68回カンヌ国際映画祭に正式出品されています。
ちなみに父は俳優のモーリス・ガレル。息子であるルイ・ガレルもフィリップの「恋人たちの失われた革命」で俳優デビューを果たし、ベルナルド・ベルトルッチ監督「ドリーマーズ」(2003)などに出演する人気俳優なんですね。
そんな「映画のために生まれてきた男」フィリップ・ガレルの最新作をどうぞ。
パリ・恋人たちの影(2015)
Story
ドキュメンタリー映画を撮りたいという夫ピエールの夢のため、自らの夢を捨て同じ夢を追うことにした妻マノンは、質素な暮らしの中、夫と共に映画の撮影を行う日々に充実感を感じていた。しかし映画製作はなかなか軌道に乗らない。行き詰っていたピエールは、若い研修生のエリザベットと偶然出会い、妻がいることを告げながらも男女の関係に発展する。そんなある日、エリザベットがカフェで愛人と密会しているマノンを見かけてしまいピエールに告げると、ピエールはマノンに愛人と別れさせ、自分はエリザベットとの関係を続ける。それでも妻の浮気を許せずに、エリザベットにもマノンにもつらくあたるピエール。ついに愛想を尽かしたマノンは家を出る。同じ夢を追った夫婦の愛は影と消えるのか。身勝手な男女のリアルな感情を描く恋愛映画。
見どころピック・アップ
- 何気ない日常のシーンがすごく良かったです。マノンが食事を作っているシーンやふたりで買い物に出るシーン、部屋で寝転がってるシーンだとかそんな日常です。そういう部分を丁寧に描くことによって少ないセリフでふたりの関係性を表現しているあたりすばらしいです。
- マノンと母がカフェーでピエールについて語るシーンがあるんですが、そこの母のセリフが良いんです。「自分を捨てて尽くすほどの男なんていない」と。その通りだと思いますし、結局は物語もそうなっていくわけです。それから、マノンの母を演じたアントワネット・モヤが美しいです。存在感のあるステキな女優さんです。私なら彼女に助演女優賞です。
- ナレーションでストーリーに解説が加わる感じは、逆に新鮮に感じられましたね。フィリップ・ガレルは「ゴダールの再来」と言われているらしいですが、このナレーションの感じはトリュフォーっぽいです。
- エリザベットを演じたレナ・ポーガムはこれがデビュー作ということですが、素晴らしい存在感でした。良い女優さんになりそうです。
- マノンとピエールが決別するシーンが最高に良かったですね。マノンのセリフが素晴らしいです。女は分かってても黙ってることがあるんですよ。
- ラストシーンもなかなか良いです。ストーリー云々より、マノンとピエールの何とも言えないマッチ感に全てが吹っ飛ばされます。よくこんなお似合いのふたりを見つけたものですよね。キャスティングもすばらしいです。
ひとりごと
映画が撮りたいと妻を巻き込んだ挙句に浮気するピエールもピエールですが、自分の夢を捨てて人の夢に乗っかった挙句に、ちょっと言い寄られた男にコロっとしちゃうマノンもマノンです。そういう点でもまぁお似合いのカップルなんですが、何が悪いってやはりマノンが自分の夢を捨てたという部分ではないでしょうか。でもラストでは、愛の力によって再びピエールの夢こそが本当にマノンの夢にもなったということなのかも知れませんね。
ひとつひとつのシーンが何気ないのに印象深くて、ありふれたストーリーがやけに心に入り込んでくるあたり、「ガレルは息をするように映画を撮る」とゴダールが言うとおり、さすが名匠の成せる技です。
フィリップ・ガレルについては別作品も観てみたいですね。
それではまた。
おやすみなさい。
作品情報
出演■クロティルド・クロー(マノン)
スタニスラス・メラール(ピエール)
レナ・ポーガム(エリザベット)
アントワネット・モヤ(マノンの母)
監督■フィリップ・ガレル
脚本■ジャン=クロード・カリエール、カロリーヌ・ドゥリュアス、アルレット・ラングマン、フィリップ・ガレル
撮影■レナード・ベルタ
2015年 / フランス / 74分 / モノクローム