若尾文子の映画「お嬢さん」(1961)
こんばんは。
さて勝手に始まりました若尾文子の映画特集。今夜は「お嬢さん」(1961)をご紹介したいと思います。
この映画は、1960年に発行された三島由紀夫の長編小説を映画化した作品で、同じく三島作品で映画化された「永すぎた春」(1957)でもヒロインを演じた若尾さんが、三島と共演した「からっ風野郎」の撮影中、三島本人に直談判してヒロインの座を射止めたそうです。
三島はこの「お嬢さん」について、「永すぎた春」の<その先の人生を書きたい>という意図だと語っており、ふたつの作品で若尾さんがヒロインを演じた事は、必然だったのかもしれないですね。
監督は、「黒の駐車場」(1963)をはじめ、多くの大映作品で監督を務めた弓削太郎。
また、この映画では衣装を若尾さん本人がコーディネイトし、「若尾ちゃんの『お嬢さん』モード」と呼ばれ、その「お嬢さん」スタイルが話題となりました。
本作は、長らくDVD化されずに幻の作品となっておりましたが、2015年にようやく初DVD化されましたので、気になる方はお早めにどうぞ。
そして相手役には大映のトップスター、川口浩。
前述の「永すぎた春」でも、やはり川口浩が相手役を務めました。
他にも、同じく大映の看板俳優である田宮二郎など、いつものメンバーが勢揃いした作品となっております。
1961年に公開された若尾さんの出演映画が、少なくとも11本はありますので、ほぼ毎月、若尾さんの映画が公開されたという事になりますね。当時からそれだけ人気が高かったという事でしょう。
それでは作品情報です。
作品情報
「お見合いなんて福引よ!お嬢さんの素敵な冒険!」 (公開時のキャッチフレーズ)
藤沢かすみはそろそろ夢多き青春から結婚へのコースに向かっている様子。かすみの父は会社の部長、母は平凡で良妻賢母型、兄はすでに結婚して奥さんと暮らしている。かすみにはまだ結婚話はないが、父の会社で働く男性三人がしょっちゅう家に遊びにくる。そのうちの二人はどうやらかすみに好意を持っているようなのだが…。
「Oricon」データベースより
出演■若尾文子
川口浩
野添ひとみ
田宮二郎
原作■三島由紀夫
監督■弓削太郎
脚本■長谷川公之
音楽■池野成
1961年2月15日公開 79分
感想・レビュー
★★★☆☆ 3
何ともチャーミングな映画でした。タイトル通りの箱入り娘、かすみ(若尾文子)の「お嬢さん」っぷりにがあまりに可愛らしくて目が離せません。女は幸せすぎると退屈でつい余計な事まで考えてしまうのかもしれませんね。
ダンスパーティーで
父の会社の部下の青年社員、澤井景一(川口浩)、牧周一郎(田宮二郎)、尾崎は、父を慕い毎週のようにかすみ(若尾文子)の家に来ていた。かすみは、3人がかすみ目当てで家に来ていることに薄々気づきながらも、興味がなく知らんぷり。ある日、友人の知恵子(野添ひとみ)と立ち寄った東京駅で、澤井が普段見たことのない悩ましげな表情を浮かべながら、芸者らしき女、紅子と一緒にいるのを目撃する。そんな澤井に興味を持ったかすみは、その後開催されたダンスパーティで、澤井にその事を尋ねる。澤井はかすみの父に黙っていることを条件に話すと約束し、ふたりで会うことになる。
庭付きの豪邸に住み、世間知らずで空想好きな「お嬢さん」のかすみは、平和で幸せすぎる家庭が何だか退屈で、ドラマティックな幸せを夢見ているのですが、どこか醒めたところもあり、結婚なんてお見合いで十分と考えていたりするんですよね。何かと勝ち負けにこだわり、気の強い「お嬢さん」ではありますが、そんなところがまたかわいいです。次々と変わるキュートな衣装にもご注目下さい。
憎らしいけど気になる男
約束通り澤井の女性遍歴を全て聞いたかすみがその話を疑うと、澤井はかすみの目の前で女の子をナンパして去ってしまう。取り残されて怒ったかすみが家に帰ると、父から牧との見合いを勧められる。そこへ澤井から平然と電話があり呆れたかすみだったが、何故か澤井が気になってしまう。知恵子に恋だと言われるも、断じて認めないかすみ。一方知恵子は同じダンスパーティで知り合った牧に惹かれていた。
知恵子のキャラクターが小説とちょっと違って、ユーモラスな女の子になっているのですが、これはおもしろいと思いました。野添ひとみがまためちゃくちゃかわいいです。
プロポーズ、そして結婚
ある日澤井から銀座の洋服店「エル・ドラドオ」の店員、浅子に結婚を迫られて困っていると相談されたかすみ。悩みを聞くうちいい雰囲気になり、ついにキスしたふたりは結婚する事を決める。かすみの結婚相手を調査すると宣言していた父に、澤井の女癖の悪さが知れぬようあれこれ作戦を考えるも、あっさり許可が降りあっという間に結婚する。新婚旅行で初めて結ばれたふたりだったが、初めて男を知ったかすみは澤井の過去の女たちへの嫉妬心が抑えられなくなる。
公園でプロポーズするのは意外にもかすみなんですが、この時の「たとえば私と」が最高の決め台詞なんですよね。美しい若尾さんの入浴シーンも見どころです。
激しい嫉妬の末
新婚生活は表面上うまくいっていたが、内心かすみは澤井の女性関係をあることないこと妄想し、嫉妬心に燃えていた。そんな時、突然かすみたちの住むアパートに澤井に会いたいと浅子が上がりこんでくる。澤井と話しショックを受けた浅子はベランダから飛び降りようとするが、ふたりに止められ帰ってゆく。不安になったかすみが知恵子に相談しに行くと、知恵子と牧の関係も進んでいるとの話を聞かされる。牧について苦言を呈したかすみに怒った知恵子は、かすみの嫉妬心をさらに掻き立てるような事を言う。兄嫁まで疑い嫉妬に狂ったかすみは置手紙を残し家出するが、銀座で女といる澤井の姿を見たとの話を兄嫁に聞き「エル・ドラドオ」へ向かう。浅子に真実を聞かされ心から安心したかすみは、澤井の待つアパートへと戻っていく。
本当に余計な心配に頭を悩ませ、クタクタになっているかすみなんですが、好きになるほど不安も膨らむわけで、初恋の洗礼とも言うべき苦行に苦しめられるんですね。牧と知恵子のシーンは完全にコメディで、おもしろかったです。
ひとりごと
この映画のために三島由紀夫全集を読破したところ、「お嬢さん」は心理的な描写が多く、映画の方はどうなっているのやらと思いましたが、知恵子のキャラクターを変えたりとちょっとした変化があっておもしろかったですね。ただ、正直だらだらとストーリーを追ってしまったところがちょっと気になりました。
それにしても若尾さんの美しさ。かすみと澤井の初デートのシーンで、ふたりが偶然空色の服を着てきたというシーンがありますが、その時かすみが着ている空色のセットアップが、若尾さんにいちばん似合っていて好きでした。若尾さんはピンクやオレンジなんかの暖色系よりも、青や紫の寒色系の方が似合うと思いますがどうでしょう。もちろん、川口浩の青ジャンパー姿も最高に素敵でした。
それでは今夜はこの辺で。
おやすみなさい。