「ブロンドの殺人者」(1944)ディック・パウエルのマーロウは誰よりマーロウだった

 

昨夜は「ブロンドの殺人者」(Murder,My Sweet 1944)という映画を観ましたがこれがまた良かったですねぇ。

私が持っているノワール本『フィルム・ノワールの光と影』に掲載されたフィルム・ノワールの代表作品リストでは、写真入りの1ページで紹介されていて、けっこう期待値が高かったのですが、それを裏切ることない名作でした。

 

ブロンドの殺人者(1944)

ご存知の方も多いと思いますが、この映画はレイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説で探偵フィリップ・マーロウシリーズの一篇「さらば愛しき女よ」を原作とした作品で、三度映画化されていますが、同じ小説を原作とした1975年の「さらば愛しき女よ」よりだいぶと良かったですね。

何が良いって、ディック・パウエルのマーロウがもうめちゃくちゃ良いんです。

今までいろんな役者さんが演じるフィリップ・マーロウを観てきて、例えば「三つ数えろ」のハンフリー・ボガートや、「湖中の女」のロバート・モンゴメリー、先ほど挙げた「さらば愛しき女よ」のロバート・ミッチャムなどですが、その中の誰よりも、この「ブロンドの殺人者」のディック・パウエルが私のイメージするフィリップ・マーロウその人で、もうそのまんまマーロウだったんです。

解説によると、人気歌手ダンサーだったディック・パウエルが役者として成長するため初の「汚れ役」として選んだのがこのマーロウ役で、監督であるエドワード・ドミトリクは容赦無くパウエルを汚しに汚したとありますが、これが初の汚れ役なんてとても信じられないほど本当にハマってましたねぇ。多分これからレイモンド・チャンドラーのマーロウシリーズの本を読むたび、どの作品のどんな場面であっても、私の頭の中ではこの映画のディック・パウエルがマーロウとして登場する事になりそうです。

 

 

クレア・トレヴァーは逆にこの「ブロンドの殺人者」役があまりハマってなかったかも知れません。というのも私が彼女を初めて見たのが、アンソニー・マンの「脱獄の掟」(1948)という映画でして、そこではお人好しのロマンティスト女といった役柄だったのもあり、どうも悪い女に見えないんです。それに、物語の中でこの女を必死で探す「ムース(へら鹿)」という名の大男がいて、この男が女のことを「レースのパンティーみたいにかわいい女」と表現するんですが、何となくですが、クレアさんには「レースのパンティ」感が薄いんですよね。この点では、1975年の「さらば愛しき女よ」のシャーロット・ランプリングの方がハマっているようにも思いました。

さて、物語はやや複雑ですがけっこうおもしろいですし、普通に話を追うだけでも十分楽しめますが、私が気に入ったのはマーロウがクスリを打たれてフラフラになるシーンとラストシーンです。

クスリのシーンは、今見るとなかなかチープではありますが、何とも味わい深いトリップ感が良いんです。昨今の映画のようにCGとかでサクサク作った綺麗なやつも見やすくて悪くないですが、半透明フィルターを使って撮ったというシュールな映像は、試行錯誤しながら頭の中にあるイメージを頼りに作り上げたという手作り感があり非常に親近感が湧きました。

また、この映画は、暗闇に光る街のネオンや、ガラス窓に反映する不気味な人影など、コントラストの効いた映像が効果的に使用され、フィルム・ノワールらしさがうまく表現された初の作品とも評されているんだそうです。

そしてラストはほんとにユーモラスでお見事です。

目隠ししながら女を口説き落とせるのって、どこを探しても「タフガイ」フィリップ・マーロウくらいでしょ。このユーモアと素っ気なさの入り混じったマーロウの雰囲気をディック・パウエルが見事に演じていたと思いました。

 

 

Story

取調室で刑事を前に目隠しをされ座る私立探偵のフィリップ・マーロウ。刑事から、ある事件について洗いざらい話さなければ、殺人容疑で捕まることになると言われ、混乱しながらも事件について話しはじめる__。

ある晩遅くマーロウの探偵事務所にムースという大男が不意に現れた。男は8年前に消えたヴェルマという踊り子を探して欲しいと言う。早速、当時ヴェルマがショーに出ていた店の主人の妻を見つけ訪ねたマーロウは、そこでヴェルマの写真を手に入れる。

その後事務所に戻ったマーロウは待ち構えていたマリオットという怪しい男から宝石取引の護衛を依頼され、マリオットと共に取引現場へ向かうが…。

 

 

作品情報

ブロンドの殺人者 [ ディック・パウエル ]
created by Rinker

監督■エドワード・ドミトリク

脚色■ジョン・パクストン

原作■レイモンド・チャンドラー「さらば愛しき女よ」

出演■ディック・パウエル(フィリップ・マーロウ)

クレア・トレヴァー(ヴェルマ/グレイル夫人)

アン・シャーリー(アン)

マイク・マザーキ(ムース・マロイ)

オットー・クルーガー(アムサー)

 

 

あわせて読みたい

2件のフィードバック

  1. シネフィルkt より:

    今回も興味深く拝見しました。

    私もいずれはフィルム・ノワール、さらにフィリップ・マーロウ作品を極めるべく、この映画も観てみたいです。レンタルあるか探してみます。

    • yukico より:

      シネフィル さま
      こんにちは!早速コメントいただき舞い上がっております!
      いつもありがとうございます。
      マーロウシリーズで見てみるのも面白そうですよね。そういえばまだ「ロング・グッドバイ」(1973)は観てなかったので観なきゃです〜!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です