セロニアス・モンクの流れる映画「危険な関係」(1959)
植草甚一さんのスクラップ・ブック「コーヒー一杯のジャズ」を読んでいると、何本かの映画がどうしても観たくなってくる。そのひとつが、モダン・ジャズと映画について書かれた部分に紹介されていた映画で、ヌーヴェル・ヴァーグ作品として数えられることもあるロジェ・ヴァディム監督の「危険な関係」だ。この映画はなんと劇中でセロニアス・モンクが流れる映画だという。偶然にも今月(2018年2月)Blu-rayが発売され来月からはリバイバル上映もされるそうで、そうなるともう観ないわけにいかないよなあ。
危険な関係(1959)
植草さんの本にあったとおり、オープニング・クレジットが洒落たチェス盤に映し出されると同時にいきなりセロニアス・モンクのピアノ・ソロ「Crepuscule with Nellie」が流れ出した。パーティー・シーンはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの「危険な関係のブルース」だ。部屋へ戻るとジェラール・フィリップ演じる主人公バルモンがレコードをかけるのだが、またしてもモンクのレコードで、曲は「Ba-Lue Bolivar Ba-Lues-Are」。その後バルモンの妻ジュリエット(ジャンヌ・モロー)が不倫相手の悪口をバルモンへ愚痴っているシーンあたりから「LightBlue」が流れ出し場面はスキー場へスイッチ。え?夫へ不倫相手の悪口?そうなんです。この映画、ストーリーはかなりクレイジーな夫婦の恋愛ゲームのお話なんです。ふたりはお互い自由に不倫を認め合い、それを逐一報告しあって楽しんでいるのですが、奥サマがかなり悪くて、夫にいろいろと悪い提案をしては周りの女たちを破滅させていくんです。
そんな訳で今回も妻からの指令を受けスキー場へ出かけたバルモンは、ジュリエットの指示とは別に偶然出会った人妻マリアンヌ(アネット・ヴァディム)に思いっきり恋をしてしまいます。出会いのシーンやマリアンヌを口説きにかかるシーンでもやはりモンクの曲「Pannonica」などが時々流れては消え、チープになりがちなストーリーをうまく洒落た仕上がりにしているあたりさすがヴァディム監督。貞操な人妻マリアンヌを攻めあぐねていることもせっせと妻に手紙で報告し、その合間にジュリエットからの指令通り、もうひとり別の女セシル(ジャンヌ・ヴァレリー)をサクッとモノにするのですが、肝心のマリアンヌは一向に落ちず。そうこうしている間に大晦日になり妻ジュリエットもスキー場へやってきて皆勢ぞろいで仲良く年越し(怖)。ここでのパーティーシーンでもなかなかいい音楽がかかっていてとてもいい感じです。
このあと、ついにバルモンとジュリエットの関係に亀裂が入り、最後にはセシルがらみで事件が起こるわけですが、ラストのナイトクラブでのシーンでは何と実際に演奏シーンまであるんです。ただしメンバーはアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズではなく、デューク・ジョーダン(p)、ケニー・クラーク(dr)、ケニー・ドーハム(tp)などで編成されたバンドで演奏していて、実際の音がどちらのバンドのものかは不明。ジャズは好きだけど勉強不足で曲名やメンバーが全部はわからないので詳しい話は割愛させていただきますが、とにかく全編にモダン・ジャズの流れるナイスな映画でした。
それにしても当時ロジェ・ヴァディムの奥さま(ブリジット・バルドーとカトリーヌ・ドヌーヴの間)だったマリアンヌ役のアネット・ヴァディムの美しいこと!50年代のフランス映画界を代表する美男子ジェラール・フィリップの遺作でもあるし、見どころ満載だ。そうそう若くてかわいらしいジャン=ルイ・トラティニャンも出てます。
それから、セロニアス・モンクによるこの映画のサウンド・トラックが何と昨年(2017年)になって発売されていたのです。知らなかったけど欲しいな。
アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズのサントラはこちら。
作品情報
出演■ジェラール・フィリップ
ジャンヌ・モロー
アネット・ヴァディム
ジャン=ルイ・トラティニャン
監督・脚本■ロジェ・ヴァディム
原作■コデルロス・ド・ラクロ「危険な関係」
音楽■セロニアス・モンク
デューク・ジョーダン
1959年9月9日公開(フランス) 105分 モノクローム
モンクのグループ
セロニアス・モンク(p)
チャーリー・ラウズ(ts)
サム・ジョーンズ(b)
アート・テイラー(ds)
アート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズ
アート・ブレイキー(ds)
リー・モーガン(tp)
ボビー・ティモンズ(p)
ジミー・メリット(b)