カルト的人気のフィルム・ノワール「恐怖のまわり道」(1945)
今夜は、エドガー・G・ウルマー監督の「恐怖のまわり道」(1945)を観ました。
ここ半年ほどフィルム・ノワールの映画をよく観ていますが、ウルマー監督作品は今回が初めてです。
この映画はB級映画として世界中でカルト的人気を誇る作品らしいのですが、その所以は、製作費3万ドルの低予算と撮影期間6日という短さにおいて、独白スタイルのナレーション、偶発的且つ運命的に事件に巻き込まれる主人公、ファム・ファタールの登場などノワール的要素を多く含んだ完全なフィルム・ノワールに仕上がっているという点にあるようです。
ジャズが流れるニューヨークのクラブ。その名も『夜明けのクラブ』というすてきな名前のお店です。その店で平凡な男と平凡な女が平凡な恋をする。そんな風にはじまるこの映画ですが、その先に思いもよらぬ運命の落とし穴が待ち受けていました。
恐怖のまわり道(1945)
Story
物語はくたびれきった主人公アルが、立ち寄った食堂である音楽をきっかけに回想するところから始まります。
アルはニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジのクラブで日銭を稼ぐピアニストです。歌手の恋人スーとハリウッドでの成功を夢見つつ、一歩踏み出す勇気のないままその日暮らしを続けています。
ある日スーがハリウッドへ旅立つ決意をし、アルに別れを告げます。去っていく恋人を黙って見送ったアルでしたが、ある晩店でピアノを弾いていて10ドルのチップを受け取ります。そこで思い立ってスーへ長距離電話を掛けると、『這ってでも行く』とようやくハリウッド行きを決意するのですが、お金のないアルがニューヨークからL.A.まで大陸を横断して行く手段はただひとつ、ヒッチハイクです。
長い長い旅になることを覚悟して旅立ったアルでしたが、アリゾナで思いも寄らぬ幸運に恵まれます。高級車に乗った身なりの良い若い男ハスケルの車に乗せてもらうと、そのままL.A.まで連れて行ってくれると言うのです。ところがこれが人生最悪の『まわり道』のはじまりです。
食事もご馳走になり、アルが運転を代わって走り出すと、ハスケルは助手席で寝てしまいます。そこへ雨が降り出し、車の幌を閉めようと停車して助手席のドアを開けたとき、もたれかかって寝ていたハスケルが外へ転がり落ち、地面にあった大きな石に頭をぶつけてあっさりと死んでしまいます。
自分が殺したと疑われるのを恐れたアルは、ハスケルの遺体を隠すと、服を交換し自分の荷物を捨て、ハスケルに成りすまして出発するのですが、悪しき運命がアルに追い討ちをかけます。
その後若い女ヴェラを出来心で拾ったアルは、ヴェラがハスケルの知り合いだったことを知り、殺しを責められ、その事を通報すると脅迫されて、言われるがままヴェラに従い続けることになります。目的地のL.A.へ到着しても解放されず、恋人に電話ひとつかけることもできぬまま、やがてヴェラに完全に支配されてしまいます。
そしてまたしても運命は、とどめを刺すようにどこまでも冷たくアルをどん底へ突き落とすのです_。
Review
なるほど噂通りの怪作でした。
あまりにも強引に、何の慈悲も与えずに、運命は非のない主人公アルを奈落の底まで突き落とします。同じタイプのフィルム・ノワールで、フリッツ・ラングの『飾窓の女』なんかもありますが、この映画の主人公ほど運の悪い男は見たことがありません。
ただ、運が悪いのにはわけがあります。それはほんのささいなことで、悪い癖のようなものです。ハリウッド行きを迷った優柔不断さ。心配事を抱えながらヒッチハイクの女を拾ってしまうやさしさ。ピアニストですから、繊細な人間なのかも知れませんが、そのちょっとした迷いや気の弱さが、相手に付け入る隙を与え、物事を悪い方へ悪い方へと導いてしまうのです。
逆にヴェラは憎たらしく悪い女ですが、現実的で人生をひとりで生き抜くための術をよく知った強い女でもあります。彼女の言うことはあながち間違いばかりではありません。お金の稼ぎ方を教えてあげてるのよと彼女が言う通り、金への執着心を剥き出しにして頭を働かせ、獣のように奪いにいかなければ、大金など手に入らないのが現実なのかもしれません。
生きる上でやさしさは大切ですが、時に命取りにもなりかねない事態を巻き起こすことがあります。やさしさだけでなく『強さ』をしっかりと身につけて生きていかなければと、そんなことまで考えさせられた映画でした。
作品情報
監督■エドガー・G・ウルマー
出演■トム・ニール(アル・ロバーツ)
アン・サヴェージ(ヴェラ)
クローディア・ドレーク(スー)
エドムンド・マクドナルド(ハスケル)
1945年11月30日公開(アメリカ) 68分 モノクローム
※日本未公開
いつも更新を楽しみにしてます。平凡な男と女のノワールとは興味深いですね。
B_monkさま
わあ、いつもありがとうございます。こちらも見ていただけてうれしいです!これおもしろかったです!平凡な男と女の恋物語のはずが、とんでもないまわり道になってました〜笑