男性・女性
こんばんは。
今夜はジャン=リュック・ゴダール監督作品「男性・女性」(1966年フランス)を観ようと思います。
この映画では、フランソワ・トリュフォーの作品に登場する、アントワーヌ・ドワネル役でお馴染みのジャン=ピエール・レオが、ゴダール作品で初めて主役を務め、相手役には、当時アイドル歌手だったシャンタル・ゴヤをそのままアイドル歌手の役としてキャスティングしています。また、フランスでのタイトルには「15の明白な真実」という副題がついていて、15のエピソードで構成された物語になってています。
少し前に観た「女と男のいる舗道」(1962)に続き、二度目のゴダール作品ですが、私はこの作品を何度観たことでしょう。大好きな作品で、何度観てもまた観たくなる映画です。
それでは作品情報をどうぞ。
作品情報
雑誌社に勤めるポールは、歌手志望のマドレーヌに恋をする。二人は付き合い始めるが、次第にお互いのズレを感じるようになり……。
政治運動に精を出しながらも女の子のことが頭から離れない青年と、スターを夢見る娘。二人の初々しい恋を軸に、1965年のパリと「マルクスとコカコーラの混血児」である’60年代後半フランスの若者たちの生態を15のエピソードで綴った、ゴダール唯一の青春映画。出演はヌーヴェル・ヴァーグのアイドルで当時21歳のジャン=ピエール・レオーと、日本でも人気のあったアイドル歌手、シャンタル・ゴヤ。ブリジッド・バルドーや歌手のフランソワーズ・アルディも特別出演している。
出演■ジャン=ピエール・レオ
シャンタル・ゴヤ
マルレーヌ・ジョベール
監督■ジャン=リュック・ゴダール
脚本■ギ・ド・モーパッサン ジャン=リュック・ゴダール
原作■ギ・ド・モーパッサン
1966年3月22日公開(フランス)
感想・レビュー
やはり何度観てもいいですね。1965年冬のパリの若者たちの姿が、輝きを失う事なく完全な形でフィルムに収められています。ただ、あまりにゴダール的と言いますか、ドキュメンタリーのような映画ですので、少しわかりにくい部分もあると思います。
出会い・デートに誘う
ジャン=ピエール・レオ演じるポールと、シャンタル・ゴヤ演じるマドレーヌがカフェで出会うところから物語ははじまります。少し会話をして知り合いになり、やがて雑誌社で働きだしたポールがマドレーヌをトイレの前で待ち伏せしてデートに誘います。このシーンがすごくいいんですよね。私はいちばん好きなシーンです。
マドレーヌは気のない素振りで化粧直しをしながら、ポールの誘いをうまくかわしているのですが、話をするうちに、少しずつポールに興味を持ち始めます。ここでのふたりの会話や間の取り方、お互いを盗み見るような視線の交わし方が、出会ったばかりの若い男女のリアルな様子を描いていてすごくいいです。カメラは話をしている人物を映している場合もあれば、映していない場合もあって、どんな表情でこの話をしているのか、観る側の想像力をかきたてるような撮り方をしています。マドレーヌがポールに「世界の中心は何?」とか「人間はひとりで生きられると思う?」と尋ねる台詞があるのですが、この辺りの会話が非常にゴダールらしくて好きです。とにかくすばらしいシーンです。
違和感を感じつつ
やがてふたりは恋人同士となり、ポールはマドレーヌのルームメイトであるカトリーヌとエリザベートと4人で一緒に暮らすことになります。ポールはマドレーヌに夢中でプロポーズまでしますが、ところどころで好きな音楽や考え方の違いにお互い違和感を感じます。時にはマドレーヌを怒らせてしまったりしつつも、ポールは必死で彼女を追い続けます。ポールとルームメイトたちは、それなりに仲良くやっていますが、時に気まずい空気が流れる事もあり、それでもマドレーヌと一緒にいたいポールが見ていて何だか切なくなります。この辺りの気まずい感じも若者らしくて、懐かしい気持ちになりますね。
暴力的なシーンの数々
この映画では、ところどころに物語とは関係のない暴力的なシーンが挿入されています。別れ話をしていた夫婦がけんかになり、妻が夫を拳銃で撃ってしまうシーンに始まり、自分の腹にナイフを突き刺す男、電車の中での黒人と白人の言い争い、家族を見送ってすぐに焼身自殺をする男など、怒りと死をダイレクトに描いたシーンばかりが登場します。これは、冒頭のカフェのシーンで語られるように、当時のパリでは、若者にとって労働条件の悪い仕事しかなく、そういった社会に対するパリの若者たちの怒りを映像化しているのではないかと私は思いました。ポールは兵役へ行き、「自由を獲得する事がいかに困難か思い知らされた」と語っています。戻ってからも住む家もなく、友人のロベールも車での生活を送っています。そんなパリの若者たちの貧困に対する怒りがこういったシーンに表現されているのではないでしょうか。
インタビューとラストシーン
もうひとつこの映画では、物語とほとんど関係のないインタビューシーンが織り込まれています。ロベールがカトリーヌに質問するシーンや、ポールが仕事でミス19才にインタビューしているシーンなどで、政治的な質問や妊娠についての質問をするのですが、政治的な質問に関しての女の子たちの答えは知らない、興味ないといったそっけない返事ばかりです。これは政治的思想をしない若者への批判なのかも知れませんが…当時のパリの社会的背景を詳しく知らないので、はっきりとはわかりません。ただ、妊娠に関する質問に関して言えば、当時パリの若者たちの間で必ず議論がなされた問題だったそうで、たとえ子どもができても、産むかどうかを選択できる時代になり、その問題について初めて触れた映画でもあるそうです。
そしてあまりに急展開なラストシーンがやってきます。最後にマドレーヌが言う「迷ってる」という台詞からも、若者たちの妊娠についてのリアルな苦悩が伝わってくるのではないかと思います。
ひとりごと
たくさん書いてきましたが、この映画はやはり、1965年冬のパリの若者たちをリアルに描いた青春ものと言っていいと思います。思いっきり恋をして、夢を追いかけて、居心地のいいとは言えない社会の中で、懸命に生き抜く若者たちの姿を、本当に瑞々しく描いていると思いました。
ジャン=ピエール・レオをはじめとする若い俳優・女優たちの姿を眺めているだけで楽しくなるほど素敵ですし、恋愛映画としてさらっと観ても十分楽しめると思います。また、1965年冬のパリの若者の苦悩が、今この時代の若者の苦悩と重なる部分も多くありますし、この映画こそ、若者に是非観ていただきたい映画だと思いました。私はたぶん二十代前半くらいに観たと思うのですが、できればもっと若い頃に観たかったですね。
あと、ポールと友人のロベールの会話の中で、男性(masculin)にはマスク(顔)と尻があるが、女性(feminin)には何もない!というシーンがあるのですが、このシーンはなかなかいいなと思いました。
それから、ブリジット・バルドーをはじめ、豪華な友情出演者たちにも注目ですね。今夜は随分長くなってしまいました。
それではまた。
おやすみなさい。