「5時から7時までのクレオ」(1962)を観てアニエス・ヴァルダのセンスに驚嘆してしまった
こんばんは。
今夜のひとり映画は「5時から7時までのクレオ」(1962年フランス・イタリア合作)をご紹介したいと思います。
ヌーヴェル・ヴァーグの「左岸派」に属し、同じく左岸派のジャック・ドゥミ監督の妻でもあったアニエス・ヴァルダが監督・脚本共に手がけたモノクロ作品。
主演はコリンヌ・マルシャンというフランスの女優で、ジャック・ドゥミ監督の「ローラ」(1961)への出演をきっかけに本作の主役に抜擢されたそうです。
そして何と言ってもこの映画には、多くの素晴らしい映画音楽を手がけ、今もなお精力的に活動を続けるミシェル・ルグランが作曲家の役で出演しているんですね。様々なアレンジでピアノを弾きシャンソンを歌う若きルグランの姿にご注目下さい。
ルグランは、ジャック・ドゥミやアニエス・ヴァルダと非常に仲が良かったようで、その様子は2008年のアニエス作品、「アニエスの浜辺」でも知る事ができます。
さらに、クレオが無声映画を観るシーンには、なんとゴダールとアンナ・カリーナ夫妻が揃って登場し、おかしなコメディを演じておりますのでお見逃しなく。
それでは作品情報とあらすじをどうぞ。
作品情報・あらすじ
5時。歌手のクレオは、自分が癌に侵されているのではないかと不安な気持ちで過ごしていた。
病院での精密検査の結果が出るのが7時。占いや不吉な迷信により不安は膨らむばかり。ショッピングで気を紛らわそうとしても無駄で、恋人にもその不安を打ち明けることができない。歌のレッスンを抜け出し、街中を彷徨い歩けば、人々の視線がすべて自分に向けられているような錯覚すら覚える。友人のドロテとドライヴするも気が晴れず、公園をひとり歩いていると、アルジェリアからの帰還兵、アントワヌと出会う。見知らぬ男に不思議と心開かされ、悩みを打ち明けたクレオは、アントワヌに付き添われ病院へと向かうのだった。
出演■コリーヌ・マルシャン(クレオ)
アントワーヌ・ブルセイエ(アントワヌ)
ドミニク・ダヴレー(アンジュール)
ドロテ・ブラン(ドロテ)
ミシェル・ルグラン(ボブ)
監督・脚本■アニエス・ヴァルダ
音楽■ミシェル・ルグラン
公開 1962年4月11日(フランス)90分
第15回カンヌ国際映画祭正式出品作品
感想・レビュー
★★★★☆ 4
「5時から7時までのクレオ」の何が素晴らしいってずばりカメラワークです。
ほとんどの時間をクレオの目線で撮っているので、街を歩けば、街ゆく人々の後姿、街路樹を抜け舗道を照らす太陽の光、クレオの見たもの全てが映し出され、車に乗れば、運転手越しにパリの町並みがひたすら流れ、まるでパリを旅行しているような気分になってきます。そしてクレオを見る人々の視線。これが事細かに差し込まれることによって、追い詰められたクレオの心情を表現しているのでしょう。しかしながら、ロードムービーさながらのそれらのシーンは決してしつこすぎず、他のシーンと絶妙なバランスを保っているのです。そして注目すべきはそのアングルの良さ。まったくアニエス・ヴァルダには驚かされました。それもそのはず、アニエスは監督になる前は写真家だったそうで、なるほど納得致しました。
見どころピックアップ
ミシェル・ルグラン
- 冒頭タロット占いのシーンがまず良いです。そこだけカラーで上からカードを撮っているのですが、クレオ演じるコリーヌ・マルシャンの手の美しさ。そこにご注目下さい。
- クレオとアンジュールが乗り込むタクシーがシトロエンDSという流線型ボディの最高にカッコいい車なんです。この車について運転手が「IDよ」と言い返すのですが、IDとはDSの仕様を簡素化した廉価型なんだそう。運転手が女性っていうところがまた良いんですよね。
- やはりルグランの登場シーンはいいですね。すごく楽しげにアグレッシヴに弾き語る姿から、ルグランの音楽愛をひしひしと感じます。彼の歌う「嘘つき女」が素晴らしい!
- クレオが観る無声映画に登場するのがゴダールとアンナ・カリーナですが、若きゴダールがなかなかハンサムなんですよね。彼のトレードマークとも言えるサングラスについてのいじりまでありますので乞うご期待。
ひとりごと
久しぶりに観ましたが、ここまで芸術的な作品だったとは気づいていませんでしたね。すみません。
アニエス・ヴァルダへの信頼度が高まったので、他の作品も観なおしてみたくなりましたね。
ただ、この映画に関して言えば、まず主人公クレオのキャスティングがイマイチだったのではないかと。背が高くきれいな女優さんではありますが、悩んだり怒ったりのシーンが多いわりに悩み顔が神経質そうなんですよね。それから、ストーリーもあまりピンときませんし、アントワヌが登場してからのラストがね…あまり好きではなかったのが残念でした。
わりと重要な部分がイマイチで、細かい部分がすばらしいという変わったタイプの映画ではありますが、とにかくアニエス・ヴァルダは抜群にセンスがいいという事だけは嫌と言うほどわかりました。
それではまた。
おやすみなさい。