ブルーに生まれついて
こんばんは。
今夜ひとりで観る映画は、ウエストコースト・ジャズを代表するトランペット奏者で、ヴォーカリストでもあるチェット・ベイカーを題材とした映画「ブルーに生まれついて」(2016カナダ・イギリス合作)です。
チェット・ベイカーは1952年のデビュー当時から非常に人気が高く、端正な顔立ちも手伝って「ジャズ界のジェームス・ディーン」と呼ばれたそうですが、当時のジャズメンの多くがそうであったように、1950年代後半からはヘロインなどの麻薬に溺れていきます。この映画ではその辺りがどのように描かれているのでしょうか。
そんなチェット・ベイカーをを今回演じるのが、1985年のデビュー以来数多くの作品に出演し、「6才のボクが、大人になるまで。」(2014)で二度目のアカデミー助演男優賞にノミネートされたイーサン・ホーク。
これすごいキャスティングですよね。イーサン・ホークがチェット・ベイカーを演じる訳ですから。ちょっとした事件ですよ。カリスマ×カリスマでどのような仕上がりとなるのか非常に楽しみです。
イーサン・ホークは以前書いた「リアリティ・バイツ」(1993)にも出演していますので、よろしければそちらもどうぞ。
それでは作品情報をどうぞ。
作品情報
イーサン・ホークが伝説のトランペット奏者、チェット・ベイカーを演じたラブストーリー。1950年代に一世を風靡したチェットは、ドラッグ絡みのトラブルを起こしていた。俳優として自伝映画の撮影に参加した彼は、麻薬の売人から暴行を受け…。
「キネマ旬報社」データベースより
出演■イーサン・ホーク
カルメン・イジョゴ
カラム・キース・レニー
監督・脚本■ロバート・パドロー
2015年9月13日トロント国際映画祭 上映
2016年3月11日公開(カナダ) 97分
感想・レビュー
★★★☆☆ 3
映像の美しさ。そしてイーサン・ホークをはじめとする俳優陣は皆すばらしかったです。ただ、思っていた以上にラブストーリーだったのと、後半ストーリーが読めてしまう点が少々残念でした。もったいないと言うか、惜しいんですよね。しかしながら、イーサン・ホークの歌う「My Funny Valentine」が聴けたことですし、何よりチェット・ベイカー役をイーサン・ホークにオファーしたという事がいちばんすごいです。ナイスキャスティング!
自伝映画の撮影中に
イタリアで留置場に入れられていたチェット・ベイカー(イーサン・ホーク)の元へ、ハリウッドから映画監督が会いにくるシーンから物語りは始まります。
多くのファンで埋め尽くされたニューヨークの名門ジャズクラブ「バードランド」でライヴをするチェットだったが、マイルス・デイヴィスやディジー・ガレスビーと言った黒人ジャズメンからは冷ややかな視線で見られ、私生活では女とクスリに溺れてゆく。そんな自伝映画の撮影中に、旧知のプロデューサー、ディック(カラム・キース・レニー)が現れ、レコーディングのオファーを受ける。
ところがその晩、映画で共演したジェーン(カルメン・イジョゴ)とのデート中に麻薬の売人から襲撃され、トランペットが吹けないほどの傷を負ってしまう。
冒頭のシーンからいきなりの芸術的なカットと、映像の美しさに魅了されました。それから「バードランド」でのライヴシーンで「Let’s Get Lost」が始まったときは心躍りましたね。歌がないのは残念でしたけどね。ボウリング場やジェーンの部屋でのふたりの会話もすごく素敵で良かったです。すきっ歯の話が特に好きでした。
恋に落ちたら
その事件により、映画やレコーディングの話は立ち消え、トランペットも吹けなくなり、全てを失ったチェットだったが、そんなチェットをジェーンが献身的に支える。やがてふたりは恋に落ち、チェットはクスリを絶つ決意を固め、実家のあるオクラホマへジェーンとふたり向かう。保護観察中の規則でアルバイトをしながらも、チェットは必死でトランペットの練習を重ねる。
ジェーンの優しさと愛に目覚めるチェット。ここでもふたりの会話が良いです。田舎で一人っ子じゃ寂しかったでしょとジェーンが尋ねると、僕にはトランペットがあったからとチェットが答えるのですが、これが全てを物語っています。父親との会話からもわかりますが、とにかくチェット・ベイカーはトランペットが好きなんです。誰にどうされようと何と言われようと決してトランペットを辞めないんです。
車での生活
ロサンゼルスへ戻り、海辺に止めたジェーンの車での生活が始まる。チェットは徐々に吹けるようになり、セッションへ参加する。始めは思うように吹けずに邪魔者扱いを受けるも、諦めずに練習し続け、やがてセッションはチェットの客でいっぱいになる。ディックに頼み込み、何とかトランペットの仕事と雑用をやらせてもらうようになるが、労働時間が足りず保護監察官から違う仕事に就くよう命じられる。
車での生活は、ひたすらトランペットの練習とジェーンとの愛が深まってゆくシーンなんですが、くたびれた中年チェットの練習シーンが何とも切ないんですよね。「ロッキー」を観ている感じです。そしてロケーションの良さ。海、トランペット、水色のワゴンに愛し合う男と女ですから。どこを切り取っても全てが画になります。
レコーディング、そして
やがて保護監察官やディックにその仕事が認められるようになり、以前とは別の味が生まれレコーディングをすることになったチェット。緊張しつつもレコーディングは成功に終わる。そこへ訪れたディジー・ガレスビーに直談判し、再びニューヨークの「バードランド」への出演を取り付けるのだが、ジェーンがオーディションのためチェットはひとりで旅立つ。しかし、結局「バードランド」へやってきたジェーンが見たものは…。
レコーディングでの「My Funny Valentine」が良いですね。イーザン・ホークやりますよね。ラストは賛否分かれそうですが、ライヴシーンでチェットが歌う「I’ve Never Been In Love Before」がこの映画の全てです。
ひとりごと
ジャズをはじめとするミュージシャンや、アーティスト、作家などの伝記映画のほとんどは、栄光と挫折が描かれた作品であり、挫折のきっかけは必ずと言っていいほどにクスリなんですが、この映画はクスリに溺れていくのではなく、クスリを絶っていた期間のラブ・ストーリーという設定が斬新ですよね。ただ、正直ラブストーリーより、トランペットへの情熱を傾けるシーンの方が見ごたえがあって良かったように思うので、その辺りがちょっと残念でした。
サブタイトルなのかキャッチフレーズなのか分かりませんが、「Love is Instrumental」っていうのはすごくカッコいいですけどね。
それではまた。
おやすみなさい。