映画「欲望 BLOW-UP」(1967)を3回観てやっと本質が見えてきた話し
映画「欲望(BLOW-UP)」(1967イタリア/イギリス)を観たことがありますか?
イタリアを代表する映画監督ミケランジェロ・アントニオーニが1967年に公開しカンヌでパルム・ドールを獲得した本作は、スウィンギン・ロンドン真っ只中のロンドンを舞台に、人気フォトグラファーのトーマスが撮った一枚の写真を巡るサスペンス・タッチの物語なんですが、これがどうもよくわからないんです。それで変な映画だなぁとずっと思っていたのですが、今回3度目の鑑賞で何となくですがちょっとだけこの映画の本質が見えた気がしたので、ここに書いてみたいと思います。
欲望 BLOW-UP(1967)
Story
まずはじめに登場するのが謎の白塗り前衛芸術集団なんですが、この辺りは当時のロンドンのカルチャーの一部と捉え一旦スルーすることにします。主人公トーマスはボロボロの服を着て、日本で言う日雇い労働者が住む簡素な宿舎みたいなところからふらふらと出てくるのですが、少し離れるとロールスロイスのオープンカーに乗り込んで秘書と無線で連絡を取りながら颯爽とスタジオへ向かいます。
スタジオに到着すると誰もが憧れる売れっ子フォトグラファーとして助手に指示を出し、待たせていた美人モデルをカメラ好き垂涎のハッセルブラッドやニコンFでひたすら撮りまくります。そして一仕事終えると(まだ途中?)モデル志願の娘たちを蹴散らしてまた車にのってふいっと出かけてしまうんです。
ハッセルブラッドとデヴィット・ヘミングス
骨董品店をのぞき、車のグローブボックスに無造作に投げ込まれた(鍵は閉めてる)ニコンFを取り出すと、近くの公園へ行きまた撮る。
この後、公園にいたカップルを何となく盗撮してスタジオに戻り、そのフィルムを現像したところからまた別のストーリーが始まるわけなんですが、個人的にはここまでのストーリーの中にこの映画の本質の8割は描かれているのではないかと思うのです。
Review
それはずばりカメラです。トーマスは写真家として既に大成功しているにも関わらず、仕事以外でもとにかく写真を撮ります。これらのシーンを観る限り彼にとって写真はただの職業ではなく天職であり、彼は言わば芸術家なんです。カメラは美しいものを見つける目であり、真実を写し出す記録であり、物事を客観的に切り取る道具なのですが、トーマスにとってはファインダー越しの世界だけが真実なのです。
よく観てください。このあとトーマスが編集者ロンを呼び出し、例の日雇い労働者が暮らすような宿舎で撮った写真を見せるシーンがあるのですが、ここでのトーマスの情熱的な語り口は、他のシーンの何もかも(妻の浮気にも)に無関心な語り口と随分違いますし、売れっ子カメラマンがそんなところに潜入すること自体写真へのただならぬ情熱を感じますよね。仕事としてモデルを撮るときも、カメラを構えると別人のように鋭い目付きになり、ものすごい集中力で汗だくになって撮るのもそうです。そして、公園で撮った写真を眺めていて、そこにある殺人事件が写し出されているのではないかと、何度も写真を引き伸ばし(=BLOW-UP)真実を模索する訳なんですが、とにかく主人公トーマスは写真のことになるとものすごい情熱的になるのです。
つまりこの映画って写真にとりつかれた男の物語と言ってしまってもいいのではないでしょうか。
初めて観た時は最初のスゥインギンなシーンばかりが目に付いてそのあとのサスペンス部分は退屈で意味不明に思えましたし、二度目は後半のサスペンスにこそ何かあるのではと必死で観てみましたが相変わらずよくわからないままだったのですが、今回3度目に観てみて初めてカメラというキーワードにぶち当たりました。
ニコンFを持つ姿もクール
もちろん、カメラは一種のメタファーであり、その後ヤードバーズのライヴで壊れたギターを奪って逃げてすぐ捨てて、パーティではロンに殺人事件の話を一通り話した後「何か見たのか?」と問われて「Nothing」。ラストのエアーテニスシーンでは、無いはずのボールを投げ返す訳で…そこから考えると、後半の殺人事件はトーマスが写真を引き伸ばし引き伸ばししている間に生まれた妄想であって、それほどトーマスが華やかな60年代に潜む空虚な日常にヤラレているということかもしれませんが、それをファインダー越しの目線で描いていく所が何とも芸術的ですばらしいではないですか!
結局、その事件がトーマスの妄想であったかどうかが問題ではなくて、要はファインダー越しに覗き込んだ世界は真実なのかという話なのではないでしょうか。そうして考えるとこの映画ってものすごく写真にとりつかれた男の物語って感じがしてきませんか?
「欲望」を3回観た私の感想はこんな感じです。とりあえず今のところは、ですが。
しかし、この映画は観れば観るほど惹かれてすごく好きになっていくんですよね。ミケランジェロ・アントニオーニは何作か見ましたが、どんなだったか忘れてしまったで他のも見直してみよ。
見どころピックアップ
お洒落すぎる名カット!
- オープニングでいきなり流れ出すハービー・ハンコックのサントラがクールで最高!
- スタジオシーンのお洒落感はすごい!ここで夢中になりすぎると話がわかりません。
- ハッセルブラッドやニコンFといった名機の登場と、主人公トーマスを演じるデヴィット・ヘミングスのカメラ捌きが凄すぎる!
- ヤードバーズのライヴシーンでは、ジミー・ペイジとジェフ・ベックが揃っている時代の貴重な映像なんですって!先にオファーされたTHE WHOが出演を断った話も有名。
- ロールスロイスで骨董品店に行き、ガラクタを買って帰るところもサブカル感満点で好き!
- 若い頃のジェーン・バーキンがモデルのタマゴ役で出演しています。
作品情報
出演■デヴィット・ヘミングス
ヴァネッサ・レッドグレイヴ
ジェーン・バーキン
監督■ミケランジェロ・アントニオーニ
脚本■ミケランジェロ・アントニオーニ、トニーノ・グエッラ、エドワード・ボンド
音楽■ハービー・ハンコック
1967年1月公開(イギリス) 111分 カラー
第20回カンヌ国際映画際パルム・ドール
それではまた。おやすみなさい。
一台の車に鈴なりになって騒ぎまくる若者の一団は、何をしてたのか?.
車を止めては、お金をたかっていました.
逢い引きの場面を盗み撮りして、その写真を雑誌に売るつもりでいた.
フィルムを渡して欲しいと頼んでも、渡さない.
殺人現場を見つけたが警察には届けず、スクープ=金にしようと考えて友人の所へ相談に行った.麻薬のパーティをやっていたので、勧められるままに自分も吸って朝まで寝込んでいた.
(もう一度現場に行くと死体は無くなっていた)
こうした事実を、良識で考えてどう想うのか?.
この写真家は、どういう人間なのか?.
bakeneko さま
おはようございます。コメントいただきありがとうございます^_^
あの若者たちは、お金をたかっていたのですね!それは知りませんでした、毎度勉強不足で申し訳ありません。
ブログを書くとき、どうやったらこの映画に興味を持ってもらえるか、また、この記事を楽しく読んでもらえるか、と考えながら書くのですが、おもしろい切り口を模索するあまり、映画のストーリーに関してやや良識に欠けていた部分もあるかも知れません。またいつか『欲望』を観てみたいと思います。貴重なご意見ありがとうございます。今後ともよろしくお願い致します。
こんばんは。良識で考えていたら映画なんて鑑賞できませんよ、、、
西部劇なんて裁判なしでバンバン悪人を殺してそれで通ってるじゃありませんか。ブログ主様の解釈でももちろん構わないわけだし、写真家仲間(プロ)がこの主人公の撮り方をみて「あれじゃあいい写真なんか撮れっこない」って呆れていたのもまたそれはそれで。
この映画は「ファッション」それにつきると思います。
ギターを壊すパフォーマンスが当時は「かっこいい」ことだったし、
カメラマンがなんか知らん高価なカメラで仕事をするのも
普通の人からみたらかっこいいんでしょう。
現実には、手練のカメラマンはコンパクトデジカメでも最高の
写真を撮るわけですが、それではつまんないから
ハッセルをかっこよく扱って欲しいわけです。
さて 映画の主題ですが
私は逆に、カメラマンがレンズを通した映像だけが真実であるのにも
かかわらず、それを信じられなくなっていく過程。
だとおもってみていましたが、
ブログ主様のご意見で
(ファインダー越しに覗き込んだ風景が信じられない)
「あっ そういう見方もあるのか」と
感動しました。
ありがとうございます。
見えないボールを打つテニスゲームを写真家は捉えることなんか
できない、、、。考えてしまいました。
写真家さま
こんばんは^_^
コメントいただきありがとうございます!この記事を書いて以来「欲望」を観てないのでかなり忘れてしまっていますが、やはりこの映画は、「ファインダー越しの世界」がポイントになってくるのかなぁとは思います。
近ごろ映画についてあれこれ書いたりすることについて思うところありまして、あまり感想を書くことがなくなりましたが、時には思ったことを書いておくと、自分がその時どう観たか少し思い出せるので、悪くもないですね。こうしてコメントいただき、一本の映画について考えたりするのもとてもうれしいです。ありがとうございました^_^